「て、に、を、は」は文法では助詞と呼ばれ、文中では単独では現れずに、必ず他の語に付属して現れます。
助詞は、動詞と名詞を結びつけたり、形容詞と名詞を結びつけたり、名詞と名詞を結びつけたりしています。
このように助詞は、語と語を結びつける役割をしています。
では、どんな言葉同士も助詞で自由自在に結びつけられるのかというと、そうではありませんね。
「空が晴れる」という、「空」と「晴れる」は助詞「が」で結びつけることはできますが、助詞「を」では結び付けられません。
語と語が結びつくには、そこにはよく使われる自然な組み合わせというものがあります(そのような単語と単語の自然な組み合わせを英語では「コロケーション(collocation)」といいます)。
そして、同じ単語同士を結びつけても、助詞が変われば意味が全く変わってしまうこともあります。
文章を書く際は、単語単独で表現することもありますが、通常は単語と単語を助詞を介して結びつけながら書いていきます。
ただ、その組み合わせは自分が思いつくものはある程度限られており、その結果文章の表現力も乏しくなってしまいがちです。
コーチングのツールの一つである「アファメーション」を書く際もいつも同じような表現になってしまって困っている方もいるでしょう。
そのようなことで困っている方には「てにをは辞典」が強力な助っ人になってくれるかもしれません。
この辞典の編者の小山一さんは、助詞を介した言葉と言葉の結び付き(結合語)を、20年ほど掛けて、250名以上の作家等の文章からコツコツと用例採集をして、のべ60万語の結合語例として「てにをは辞典」として纏めました。
この辞典をひらくと、普通の言葉の意味を調べる辞典とは全く様相が違うのではじめは面食らうかもしれません。
しかし、よくよく見てみるととても興味深く、帯に書かれた「ことばの野原を散歩してみませんか?」という感じがピッタリの内容です。
辞典を開き、その中を散歩しているうちに言葉と言葉の結び付きの新しい発見があったり、さまざまな情景を思い浮かべられたり、連想やイメージが広がっていったりします。
これを手元に置いて、この言葉と結び付けられるものは何かなと探しながら文章を書くと、いつも以上に文章の表現が豊かになることを期待できるのではないでしょうか。
試しに「コーチ」という単語があるかなと調べてみると、なんとありました。
コーチ
▲を つける。つとめる。(「▲を」は見出し語とその後の言葉が助詞「を」介して結びつくことを表しています。つまり、コーチをつける、となります)
▲として 頭角を現す。
▲に 適任。
▼厳しい。つきっきりの。有名な。(「▼」は見出し語がその後の言葉の後に続くことを表しています。つまり、厳しいコーチ、となります)
▼する 操縦を。やいのやいのと。
この辞典は主に近代作家の小説からの採集なので、コーチの用例は少ないようですが、これからコーチングが広がると、もっとコーチに関する結合語の用例が増えていくだろうと想像が膨らんでいき楽しくなってきました。その用例を自分も作る立場なのだなと。
次に「心」を見てみると、なんと結合語の用例として3ページ以上が割かれていました。
用例が多い言葉は何かなぁと見てみると、やはり用例が多いものは、多くの人にとってそれが重要なものが多いようです。
このようにこの「てにをは辞典」を見ていると、ついつい時を忘れて「ことばの野原」を長い時間散歩してしまいそうです。