『マインドの教科書』の構成の都合上掲載できなかった「コラム」と「エピソード」の原稿があります。そちらを順次掲載していきたいと思います。『マインドの教科書』と共にお読みくださればと思います。
以下に掲載するのは、その中の4つ目のコラムです。
コラム「心理学の歴史の概観(精神分析から認知科学まで)」
20世紀以降の近代心理学の歴史は、フロイトの精神分析から始まったといえるでしょう。そこでは心や無意識といったものが扱われましたが、実験的再現性が考慮されていなかったので科学的とはいえないものでした。
そこで心理学を科学的なものにしようとする行動主義(behaviorism)というムーブメントが生まれました。行動主義は、科学のパラダイムでは構造主義(structuralism)の時代に生まれたものです。
構造主義とは、言葉の通り、構造をしっかり見ていくというものです。例えば、人間の身体を見るときは、筋肉があって、骨があって、器官があって、細胞があってというように人間の構造を分解して見ていきます。全体を理解するためには、部分を細く分解して理解していく必要があるというものの捉え方(パラダイム)です。
この時代には、人体に限らず、社会の構造や経済なども、全体を理解するために部分に分解して理解するということが行われてきました。
しかしながら、人間の「心」を理解するために、「心」の構造を細かく分解していってもよく分からなものです。そこで、この構造主義の時代には、心理学では「行動主義」が採用され、客観的に観察できる行動だけを研究対象としました。
行動主義では、人間を外部から観察し、刺激と反応から特徴を抽出して、人間を定義しようとしました。これは心理学を科学的なものとするために重要な変化となりました。
行動主義のもとでは実験心理学といった分野も生まれ、統計学的な指標によって実験が行われるようになりました。このおかげで心理学は科学者の仕事になったという点で意味があることでしたが、「心」をあたかもブラックボックスのように扱ったため、結局人間の行動を上手く説明することができませんでした。
そこで次に生まれてきたパラダイムが認知科学(cognitive science)です。認知科学では、「心」をブラックボックスとして捉えないで、その中で実際に何が起きているかということを研究対象としました。
認知科学者が信じる重要な特徴が「ファンクショナリズム」です。「ファンクショナリズム」は直訳すると関数主義となりますが、巨大なシステムの中で何が起きているのかを、個々のファンクション(関数、機能)で捉えていこうというパラダイムです。
このパラダイムは、1980年代に人工知能の研究が一気に進んだことと深く関わってきます。人間の認知のプロセスをコンピューター上で再現するにはプログラムを書く必要がありますので、数学的に記述する必要がありました。そのため人間の認知の仕組みを徹底的に調べるようになり、脳内のことに関しても、脳内のファンクションを調べるようになりました。
そして、1980年代の認知科学は、徐々に人工知能や心理学以外の分野にまで広がっていき、現代の科学の基本的パラダイムになりました。
このような背景のもと、1970年代から始まったルー・タイスのコーチングプログラムは、40年の間にその時々の権威的な心理学者等をプログラム協力者として招聘しながら科学的なプログラムとしてより精緻なものにしてきました。
そして、21世紀に入り、認知科学者の苫米地英人により最新の認知科学の知見を取り入れて再構築したものが本書『マインドの教科書』で紹介しているコーチングプログラムとなります。
※「認知科学」について更に詳しく知りたい場合は、『認知科学への招待(苫米地英人著)』を御覧ください。